特定技能制度は、中小・小規模事業者をはじめとした深刻化する人手不足に対応するため、生産性向上や国内での人材確保の取組を行ってもなお、人材確保が困難な状況にある産業上の分野において、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れる仕組みを構築するため、作られた制度です。
この制度の中で、「人材確保が困難な状況にある産業上の分野(特定産業分野)」の1つとして認められたのが「宿泊」分野です。
これによりホテル・旅館での業務が在留資格「特定技能」の対象業務となり、特定技能ビザを有する外国人が日本人スタッフとほぼ同じような業務に従事することが可能、となりました。
2023年には、コロナ感染の影響が落ち着き、訪日外国人がコロナ前と同様に増えていくことが予想される状況で、特定技能ビザの活用は今後の拡大する需要に対応するために最も重要な施策の1つとなるものです。
ここでは、特定技能の「宿泊」分野について、以下の点を中心に説明していきます。
(1)特定技能「宿泊」の対象となる外国人雇用機関(旅館業の種類)について
(2)特定技能「宿泊」で認められる業務内容
(3)「宿泊」分野で特定技能外国人となるための要件
(4)受入機関に対して課される要件
(1)特定技能「宿泊」の対象となる外国人雇用機関(旅館業の種類)について
宿泊する施設に関する法律として旅館業法があります。
この法律では、旅館業を4種類に分類しております。
①ホテル営業
洋式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業である。
②旅館営業
和式の構造及び設備を主とする施設を設けてする営業である。
いわゆる駅前旅館、温泉旅館、観光旅館、割烹旅館が含まれる。
民宿も該当することがある。
③簡易宿所営業
宿泊する場所を多数人で共有する構造及び設備を設けてする営業である。
例えば、ベッドハウス、山小屋、スキー小屋、ユースホステルのほか、カプセルホテルが該当する。
④下宿営業
1月以上の機関を単位として宿泊させる営業である。
上記の4種類の中で、特定技能「宿泊」の対象となるのは、「ホテル営業」「旅館営業」の旅館業法上の許可を受けたものであること、が条件となります。
また、注意点として特定技能外国人に対して、コンパニオンサービスなど風俗営業法に規定する「接待」を行わせることはできません。
(2)特定技能「宿泊」で認められる業務内容
特定技能外国人が「宿泊」分野で認められる業務として、政府の基本方針では以下のように規定されております。
■宿泊分野の特定技能外国人が従事する業務
- 第1号特定技能外国人~宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客、レストランサービス等、宿泊サービスの提供に従事する業務
- 第2号特定技能外国人(※)~複数の従業員を指導しながら、宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客、レストランサービス等、宿泊サービスの提供に従事する業務
(※)在留資格「特定技能」には、1号と2号の2種類があります。
以前は、2号は「建設」分野、「造船・舶用工業」分野の2分野のみでしたが、2023年に2号となる分野が拡大し、「宿泊」でも2号が認められるようになりました。
2023年秋以降に2号取得のための試験が実施される予定です。
この規定により、人手不足が最も深刻だった飲食物の給仕等にも主な業務として従事することができるようになりました。
これまで、ホテルや旅館の「フロント業務」や「企画・広報業務」は「技術・人文知識・国際業務」ビザを取得した外国人しか行うことができませんでしたが、熟練した技能がなく、学歴がない外国人でも、技能水準と日本語能力水準で試験に合格したものであれば、特定技能ビザを取得しこれらの業務に就くことができるようになりました。
可能な業務としては、さらに、「メインとして規定された上記の業務」以外にも、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務(例、館内販売、館内備品の点検・交換等)に従事することは差し支えないとされており、「ベッドメイキング」業務に関してもメインではなく、「付随的に」なら従事することが可能です。
あくまでも、「付随的」であって、メイン業務とすることは許されておらず、その他「フロント」や「レストランサービス」などのメイン業務を行ったうえでのサブ業務であれば、という位置づけです。
メイン業務
◆フロント業務
チェックイン・チェックアウト対応、周辺観光地情報の提供、ホテル発着ツアーの手配等
◆企画・広報業務
キャンペーン立案、館内案内チラシの作成、HP・SNS等での情報発信等、
◆接客業務
館内案内、宿泊客からの問い合わせ対応等
◆レストランサービス業務
配膳・片付け、料理の盛り付け等
※メイン業務の「付随的」業務
ベッドメイキング、清掃、館内販売、館内備品の点検・交換等
(3)「宿泊」分野で特定技能外国人となるための要件
特定技能の宿泊分野を管轄する国土交通省の発表では、「宿泊」分野の受入対象となる条件を下記のようにしております。
①一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人材
②ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の日本語能力を有することが基本
この条件を満たすためには、以下のア.またはイ.いずれかを満たすことが必要です。
ア.(一社)宿泊業技能試験センターが実施する「宿泊業技能測定試験」に合格する、かつ日本語能力試験(JLPT)のN4レベルまたは、国際交流基金の実施する「国際交流基金日本語基礎テスト」に合格する
※N4レベルとは~試験の評価はN1~N5まであり、N1が最も高難度。
イ.宿泊分野の技能実習2号から移行する(2023年頃の開始予定)
「宿泊分野で技能実習2号から特定技能1号への移行」について
技能実習制度は、1960年代後半ごろから海外の現地法人などの社員教育として行われていた研修制度が評価され、これを原型として1993年に制度化されたものです。
制度の内容は、1号から3号までの3段階(3つの在留資格)に分かれて行われております。
《技能実習の流れ》
1年目 | 技能実習1号 | 講習・実習 |
2年目から3年目 | 技能実習2号 | 実習 |
4年目から5年目 | 技能実習3号 | 実習 |
技能実習1号から2号・3号への移行については、職種・作業ごとにその可否が主務省令で定められており、従来は「宿泊」分野での移行が認められておりませんでした。
それが、2020年2月25日から「宿泊(接客・衛生管理作業)」分野が技能実習2号に追加されたため、2023年から特定技能「宿泊分野」1号への移行が可能となりました。
ただし、下記の移行要件が課されます。
- 技能実習2号を良好に終了すること
- 技能実習での職種・作業内容と、特定技能1号の職種が一致すること
(4)受入機関に対して課される要件
ア.特定技能の宿泊分野においては、旅館・ホテル営業の形態とするとともに、以下の条件を満たすことが必要となります。
①「旅館・ホテル営業」の許可を受けた者であること
②風俗営業の規制及び適正化等に関する法律に規定する「施設」に該当しないこと。
③特定技能外国人に対して風俗営業法に規定する「接待」を行わせないこと。
イ.受入機関(特定技能所属機関)は、国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」(以下「協議会」という)の構成員になる事。
ウ.受入機関は、協議会に対し、必要な協力を行うこと。
エ.受入機関は、国土交通省またはその委託を受けた者が行う調査または指導に対し、必要な協力を行うこと。
オ.受入機関は、登録支援機関に1号特定技能外国人支援計画の実施を委託するにあたっては、上記イ.ウ.及びエ.の条件をすべて満たす登録支援機関に委託すること。
カ.受入機関は、特定技能外国人からの求めに応じ、実務経験を証明する書面を交付すること。
条件についての補足
「受け入れ機関に課される要件」について前述しましたが、特定技能制度については、特定技能外国人受入機関が行うべき基準と義務が規定されております。
この説明は、メニューの中の「特定技能について」で解説しておりますので、ご覧ください。
なお、この説においても、下記で簡単な解説を致します。
支援体制を整える
特定技能制度では、1号特定技能外国人がその活動を安定的かつ円滑に行うことができるための、職業生活上、日常生活上、または社会生活上の支援計画(1号特定技能外国人支援計画)を作成し、当該計画に基づき、支援を行わなければなりません。
この支援計画は、当該在留資格の申請の際に申請書類と一緒に提出しなければなりません。
なお、受入機関は支援計画の全部または一部の実施を他の者に委託(支援委託契約)することができます。
そして、受入機関が支援計画の全部の実施を登録支援機関に委託する場合には、外国人を支援する体制があるもの、とみなされます。
協議会の加入について
特定技能制度では、制度の適切な運用を図るため、特定産業分野ごとに分野所轄省庁が協議会を設置します。
「宿泊」分野では、外国人材を受け入れる企業は国土交通省が設置する「宿泊分野特定技能協議会」に加入しなければなりません。
外国人を受け入れた日から4か月以内に加入しなければなりません。
※協議会の加入について一部の他の分野、例えば「建設」分野では、特定技能外国人を受け入れる前にJACの正会員または賛助会員となり、会員証明書を取得しておかないとなりません。
特定技能「宿泊」分野のまとめ
特定技能制度は技能実習制度の問題点を改善し、さらに早急な見直しが講じられているところです。
2023年6月には、閣議決定により、特定技能1号の分野のうち介護分野以外のすべての特定産業分野で特定技能2号の受入れが可能となりました。
このように、制度の運用方法が変わりやすく、わかりにくい点も多くなっています。
是非、専門家へご相談ください。
また、外国人を雇用するうえで、助成金の活用も可能となります。
助成金については厚生労働省が管轄となりますが、「人材確保等支援助成金」等についても当事務所へお問い合わせください。