ここでは就労ビザの中でも一番利用されている「技術・人文知識・国際業務」ビザから「経営・管理」ビザに変更する場合の手順について説明します。
はじめに知っておくべきこと
「経営・管理」ビザへの変更を計画している方がまず、知らなければならないことは、「変更申請をするためには、その前に日本で会社を設立しなければならない」ということです。
つまり、「技術・人文知識・国際業務」のビザで就労しながら、会社の設立を準備し、実際に会社が立ち上がってからやっと変更申請ができる、ということです。
また、変更申請の場合、標準処理期間は(令和5年7月~9月許可分)57.7日となっており、許可・不許可の結果が出るまで約2か月間は待たなければなりません。
そして「経営・管理」ビザの許可が出るまでは、設立した会社の業務を行うことはできず、万一当該会社の業務を行った場合は「技術・人文知識・国際業務」ビザの活動範囲を逸脱するため、入管法違反の対象となってしまいます。
「経営・管理」ビザへの変更申請:会社を設立した後に申請ができます。
「経営・管理」ビザの要件
許可要件については、メニューにある「経営・管理」の中でも説明いたしましたが、下記となります。
「経営・管理」ビザの要件
次の①から③のいずれにも該当する事
① 事業を営むための事業所が日本に存在する事。
ただし、事業が開始されていない場合は、事業所が確保されていること。
② 事業の規模がいずれかに該当すること。
イ.「経営・管理」に従事する者以外に、日本に居住する2人以上の常勤職員が従事して営まれる事。
ロ.資本金の額又は出資の総額が500万円以上であること。
ハ.イまたはロに準ずるものと認められること。
③申請人が事業の管理に従事しようとする場合は、事業の経営又は管理について3年以上の経験を有し、日本人が従事する場合に受ける報酬と同等額以上の報酬を受けること。
外国人の会社設立についてのポイント
技術・人文知識・国際業務ビザから「経営・管理」ビザに変更するためには、まず会社を設立し、同時に事務所を契約(賃貸借)又は確保することが必要です。
また、会社設立の際に資本金の額又は投資総額を500万円以上にしなければなりません。
「常勤職員を2名以上雇用」の条件(前項 ②.イ)については、今後の事業の見込みが不確かな状況ではハードルが高く、通常「資本金の額又は出資の総額が500万円以上」の条件を選択することが多いです。
そして会社形態として、株式会社又は合同会社のうちどちらかを選択するわけですが、株式会社を選択するケースが実際には多いのが現状です。
株式会社を選択し十分な資本金(500万円)を持ってスタートすることで、取引先や金融機関に対する信用も得られやすいため、株式会社でスタートすることは重要なことと考えられます。
外国人の株式会社設立手順
株式会社設立とビザの変更申請までは、おおよそ以下の流れとなります。
① 会社定款の作成(商号、目的事項、本店所在場所、実印準備)
② 定款の認証(公証役場で認証を受けます、登録免許税の支払い)
③ 出資の履行
④ 法務局へ法人設立登記
⑤ 税務署へ届出書提出
⑥ 許認可取得(必要な場合)
⑦ 「経営・管理」ビザを申請
⑧ ハローワークへの届出(社会保険の加入手続き)
以下で、①から⑧について説明していきます。
① 会社定款の作成
会社を作るうえで、下記の事項を決定します。
① 商号(絶対的記載事項)
② 目的(絶対的記載事項) ※目的の最後の項には「前各号に附帯する一切の事業」と記載します。
●すぐには行わないが、将来的に行う予定があるものも事業目的に入れること(後で事業目的を追加すると法務局への手数料がかかります)。
●許認可が必要な事業を行う場合は、その事業について必ず記載が必要です。記載がない場合、原則としてその許可が取れません。そのために、これから行おうとする事業は許認可が必要であるか、確認が必要です。
<許認可ビジネスの例>
飲食店、人材派遣事業、旅行業、不動産業、建設業、中古品販売、等
③ 本店所在地(絶対的記載事項)
定款に記載する本店所在地は、最小行政区画である市町村と特別区(例.東京都〇〇区に置く)まででよいとされています。
④ 公告の方法(任意的記載事項)
⑤ 発行可能株式総数
⑥ 株式譲渡制限
⑦ 機関
株式会社には、株主総会と取締役1名以上を置かなければなりません。また、定款の定めによってその他の機関を置くことができます。
⑧ 事業年度(任意的記載事項)
記載例.(最初の事業年度) 当会社の事業年度は、当会社成立の日から、令和〇年〇月〇日までとする。
⑨ 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑩ 発起人(外国人)の氏名又は名称及び住所(絶対的記載事項)
設立に際して割当を受ける株式の数、設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額も記載します。
⑪ 発起人(外国人)の署名又は記名押印
定款は、作成者である発起人全員がこれに署名し、又は記名押印しなければなりません。
② 定款の認証
株式会社の定款は、公証人の認証を受けなければ効力を有しないものとされています。なお、合同会社の定款は公証人による認証を必要としません。
定款の認証に関する事務は、会社の本店所在地を管轄する法務局又は地方法務局の所属公証人が扱うこととされています。
<電子定款の作成~認証の流れ>
定款案の作成
⇓
公証人の事前確認
⇓
定款に電子署名を施し電子申請する
⇓
公証役場にて認証を受ける
③ 出資の履行
振込先は発起人外国人の個人の口座です。定款の認証が終了後に行ってください。なお、「個人の口座」は「日本の銀行の口座」または「海外銀行の日本支店の口座」でなければなりません。
登記の際に、「個人口座」の「表紙コピー」「表紙の次のページのコピー」「出資金の払い込みがわかるページのコピー」が必要です。
④ 法務局へ法人設立登記
会社設立に必要な書類(登記申請書を含め約10種類)を管轄の法務局に提出します。
登録免許税(※)は登録免許税納付用台紙に登録免許税分の収入印紙を貼り付けて納めます。
法務局で申請後、10日前後で登記が完了となります。
※株式会社の登録免許税~資本金の額×0.7% 又は 150,000円 のどちらか高いほう
⑤ 税務署へ届出書を提出
法人を設立した場合、次の書類の提出が必要です。
「法人設立届出書」「源泉所得税関係の届出書」「消費税関係の届出書」
また、「青色申告の承認申請書」も任意ですが、重要です。
税務署への届出書の控えは、「経営・管理」ビザ申請で添付が必要となります。
⑥ 許認可取得
許認可については「② 目的」で触れましたが、できれば許認可を取得した状態で「経営・管理」ビザの申請をすることが理想です。
会社設立が終わったら営業等の許可申請を他の手続きと同時に進めてください。
実際に「経営・管理」ビザ申請は、許認可が取得できていない状態でも受け付けはされますが、途中で追加書類の提出依頼が来る場合もありまし、許可がうまく進まない場合はビザ申請が不許可となります。
なお、営業許可が未取得で申請した場合は、許可証を取得見込みであることを理由書を付けて提出が必要ですし、許可証を取得した時点ですぐに入管への提出が必要です。
⑦ 「経営・管理」ビザを申請する 提出書類
例えば、飲食店を始めるために「経営・管理」ビザを申請する場合の提出書類は、以下のようになります。
① 在留資格変更許可申請書
② 申請理由書
③ 会社概要及び事業計画書
④ 収支計画書
⑤ 法人登記簿謄本
⑥ 定款・就任承諾書 写し
⑦ 本社事務所の登記簿謄本 写し
⑧ 本社事務所の写真
⑨ 申請外国人名義の普通預金口座通帳 写し
⑩ 資金形成過程を示す資料
⑪ 法人設立届出書 写し
⑫ 青色申告承認申請書 写し
⑬ 店舗 賃貸借契約書 写し
⑭ 店舗写真
⑮ 店舗の営業許可書 写し
⑯ 役員報酬を決議した株主総会議事録 写し
⑧ ハローワークへの届出(社会保険の加入)
外国人を雇用する場合、労働施策総合推進法第28条により、その氏名・在留資格などについて、ハローワークに届け出ることが義務付けられています(外国人雇用状況届出)。
厚生労働省の外国人雇用状況届出情報と、法務省の在留管理情報はデータ連携しています。
届け出内容が一致しない場合や、外国人雇用状況届出がされていない場合に、ハローワークから確認の依頼がされます。
なお、労働者派遣の場合、派遣先が決まり派遣元と雇用契約が生じた都度、雇い入れの届出が必要となります。派遣労働者の場合、派遣元が届出を行い、派遣先は届出の必要がありません。請負契約においても、派遣同様、請負元が届出を行うことになります。
社会保険 強制加入の条件
社会保険は次の種類となります。
● 健康保険
● 介護保険
● 厚生年金保険
● 労働保険(雇用保険、労災保険)
事業所の規模により社会保険の加入義務が変わりますが、強制加入の条件は次のようになります。
事業所の法的加入義務の条件
◆労災保険/原則として、常時使用する労働者が1人でもいる事業所
◆雇用保険/原則として、常時使用する労働者が1人でもいる事業所
◆健康保険・厚生保険/法人事業所で常時従業員を使用している事業所、
個人事業所で常時使用の従業員が5人以上
(農林水産業、一部サービス業、士業、宗教を除く)、
社会保険の加入を怠った場合の罰則
◆労災保険
過去2年分の労災保険料を納付します。また、加入手続きをしない間に労災事故が発生した場合、保険給付額の全部または一部が事業主から徴収されます。
◆雇用保険
過去2年分の雇用保険料を納付します。6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されることがあります。
◆健康保険・厚生保険
過去2年分の社会保険料を納付します。退職済み被保険者の社会保険料については、全額、事業主負担となるケースもあります。また、6か月以下の懲役、または50万円以下の罰金が科されることもあります。
「経営・管理」ビザの要件 事業所の確保について
「経営・管理」ビザの要件の1つが事業所の確保です。
ここで言う事業所とはどのような条件を満たすことが必要でしょうか。
事業所の条件
① 賃貸契約の場合、使用目的が事業用として契約し、契約者が当該法人であること、当該法人による使用が明記されていること。
月単位の短期間の賃貸スペース等の利用や、バーチャルオフィスなどは事業所としては認められません。
② 住居として賃貸している物件の一部を使用して事業所とする場合、次の点が必要です。
ア.貸主が住居使用以外に使用することを認めていること。
イ.借主も当該法人が事業所として使用することを認めていること。
ウ.事業を行う設備を備えた事業目的占有の部屋であること。
エ.公共料金の支払い取り決めがなされていること。
オ.看板を掲げていること。
資本金の額又は出資の総額が500万円以上 の注意点
資本金の額又は出資の総額が500万円以上であることが「経営・管理」ビザの要件の1つですが、500万円がどこから振り込まれているかについても入管ではチェックされます。
これまでの就労により稼いだものなのか、親戚・友人から借りたものであるのか、資金の出処や経緯について明らかにしなければなりません。
なお、借入による場合でも申請上の問題はありませんが、今後の返済計画を示すことが必要ですし、貸主の職業や資金力についてもチェックされます。
「経営・管理」ビザの要件 イ.又はロ.に準ずる規模 とは
冒頭の説明部分で、「経営・管理」ビザの要件の中に「イ.又はロ.に準ずる規模」の記載があります。
これは、例えば個人事業主の場合資本金自体がないため、事業に必要なものとして投下されている総額が500万円以上の場合、を一つの例として挙げられます。
個人事業主が、「事業所の確保」「雇用する職員の給与等」「事務所に必要な事務機器購入費用や事務所維持に係る経費」に支出した場合の総額を意味します。
なお、「経営・管理」ビザの取得には株式会社の設立が必須であると説明してきましたが、個人事業主として「技術・人文知識・国際業務」ビザから「経営・管理」ビザへ変更申請することも可能です。
ただし、個人事業主からの変更申請は、出資金の説明や、事業所を借りる際の与信の問題など、会社を設立する場合よりも難度が上がる、と思われます。
まとめ
この記事では、「技術・人文知識・国際業務」ビザから「経営・管理」ビザへの変更申請する場合について、時系列的な手順及び要件の内容について、かなり細かく説明してきました。
申請される外国人の方は、それぞれ違う状況で申請を行います。その際の状況に合わせて、今回の説明以外の疎明資料が必要になるかと思います。
入管の審査を通るためには、適宜、正当な理由を伝えることが必須となりますので、ご不明な点はお問い合わせ頂ければと思います。